インスタやXのアカウント売買は訴訟リスクあり
Instagram のアカウントを売りたい、あるいは買いたいと思って検索すると、フォロワー数と希望価格を並べた一覧がいくつも出てきます。国内のサイト売買の場の中にも、Instagram や X、TikTok のアカウントを単体で掲載しているところがあり、SNS のアカウントだけを専門に扱う売買サイトもあります。
一方で、RIKKA M&A の出品の種別には SNS がありません。Instagram・X・TikTok のアカウントを、単体では売買の対象にしていないからです。SNS で集客している事業は扱いますし、事業と一緒に SNS や LINE のアカウントを引き継ぐこともできます。扱わないのは、アカウント「だけ」の売買です。
なぜそこで線を引いたのか。理由は、ほかの売買の場がやっているかどうかでも、SNS が流行りものだからでもなく、SNS 各社の規約に何が書いてあるのか、そしてアカウントが止められた後に誰が損をかぶるのか、というかなり地味なところにあります。この記事では、規約の原文と、Meta が Instagram のアカウント名を売った個人を訴えた米国の裁判の記録をもとに、その理由を書きます。SNS アカウントを買おうか、売ろうか迷っている人が、取引の前に確かめておきたいことも最後にまとめます。
SNS各社の規約は、アカウントの売買をはっきり禁じている

まず、何が書かれているかを原文で確かめます。以下は、2026年10月26日に各社の規約を確認した内容です。
Instagram の利用規約は、Meta や Instagram から取得したアカウントやデータを「販売、ライセンス供与、または購入してはなりません」と定め、これには「自身のアカウント(ユーザー名を含む)のいずれかの部分を売買または譲渡しようとする試み」が含まれると書いています(英語版では「attempts to buy, sell, or transfer any aspect of your account (including your username)」)。アカウントそのものだけでなく、「@」から始まるユーザー名だけを売り買いすることも対象です。
X
X は、プラットフォームの操作とスパムに関するポリシーの「Not Allowed(認められないこと)」の最初に、金銭か仮想の対価かを問わず、X のアカウントへのアクセスを取引・売買・勧誘することを挙げ、そこに「the temporary or permanent transfer or sales of accounts, username」、つまり一時的か恒久的かを問わないアカウントやユーザー名の譲渡・販売が含まれると明記しています。
TikTok
TikTok の利用規約(2025年12月1日更新)は、本サービスの全部または一部を「distribute, license, transfer, or sell」(配布、ライセンス、譲渡、販売)してはならないと定めています。あわせて、アカウントのパスワードを秘密にして第三者に開示しないこと、TikTok の許可なく他人のアカウントを使ったり使おうとしたりしないことも書かれています。アカウントの売買を名指しした一文こそありませんが、ログイン情報を渡して他人に使わせる形の引き継ぎは、この二つの定めと両立しません。
LINE公式アカウント
SNS と並んで集客に使われる LINE 公式アカウントも同じです。LINE公式アカウント利用規約(2023年10月1日改定)は、禁止行為を定めた第18条で「本アカウントを第三者に譲渡または貸与する行為、第三者と共用する行為」を挙げ、第22条1項で、運営会社の承諾がない限り、契約上の地位を第三者に譲渡したり承継させたりしてはならないと定めています。
YouTubeとスマホアプリには、正規の手続きがある
比べると、違いがはっきりします。YouTube には、ブランドアカウントにリンクしたチャンネルの所有者を別の人に移す公式の手順があり、YouTube ヘルプは「チャンネルの所有権を譲渡するには、権限の設定ですべての役割を削除して、ブランド アカウントに変換します」と説明しています(手順の全体はブランドアカウントの記事にまとめています)。スマホアプリも、Apple の App Store Connect のヘルプが、アプリを別のデベロッパに売却したときはアプリの所有権を移管する必要がある、と書いてその手続きを案内しており、Google Play にも、別のデベロッパー アカウントへアプリを移す手続きがあります(ストア移管の実務は別の記事で扱っています)。
Instagram・X・TikTok には、これに当たる手続きがありません。売買を禁じる規約があり、そのうえで、正規に引き継ぐ道も用意されていない。ここが、YouTube やアプリとの決定的な違いです。
正規の手続きがないと、引き継ぎはログイン情報を渡すしかない

正規の手続きが無いので、SNS アカウントの売買での引き継ぎは、売主が ID・パスワード・登録メールアドレス・電話番号を買主に渡し、買主がそれを自分のものに書き換えていく形になります。この形には、構造上の弱点が二つあります。
一つは、売主の側に、アカウントを取り戻す余地が残ることです。アカウントを作ったときの情報や、過去に登録していたメールアドレス、本人確認に使った書類を持っているのは売主です。引き渡しの後に売主が「アカウントを乗っ取られた」と SNS 側へ申し出たとき、買主が「お金を払って買ったのだから自分のものだ」と言い返しても、それは規約が禁じている売買をしたと自分で認めることにしかなりません。規約が譲渡を認めていない以上、買主には、SNS 側に対して自分が正当に譲り受けた持ち主だと示す手段がないのです。
もう一つは、買主の側が、いつ止められても文句を言えない立場に立つことです。SNS 各社は、規約に反した利用を理由にアカウントを停止できます。売買で手に入れたアカウントであることが分かれば、止める理由はそろっています。そして、規約に反した売買で手に入れたアカウントが止められても、SNS 各社に補償を求める根拠はありません。
「規約違反」と「違法」は別の話
ここでよく混同されるのが、規約違反と違法の違いです。売主の承諾を得て、売主から受け取った ID とパスワードでログインすることは、不正アクセス禁止法の「不正アクセス行為」には当たりません。同法第2条4項1号は、他人の識別符号を入力する行為のうち「当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするもの」を、不正アクセス行為から除いているからです。
つまり、SNS アカウントの売買で問題になるのは、刑事罰の話よりも先に、売主・買主と SNS 各社との間の契約、つまり規約です。そして契約に反した結果として起きるのは、アカウントの停止です。お金を払って手に入れたものが、規約一つで消えうる。しかもその損を、誰も肩代わりしてくれない。この記事の論点は、ここにあります。
Metaは、Instagramのアカウント名を売った個人を訴えた

規約違反と聞いても、実際に何が起きるのかは想像しにくいものです。その手がかりになるのが、米国で Meta が起こした裁判です。
2025年2月18日、Meta は、Instagram のアカウント名(ユーザーネーム)を売っていたネバダ州在住の個人、Daniel Folger 氏を、米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴えました(事件番号 3:25-cv-01672)。
Metaが訴状で主張したこと
訴状に書かれた Meta の主張は、次のとおりです。Folger 氏は遅くとも2022年4月から2025年2月まで、Instagram のアカウント名と、停止されたアカウントを無断で復活させるサービスを販売していた。アカウント名には、およそ700ドルから5万ドルの値を付けていた。停止されたアカウントの復活では、客からユーザー名とパスワードを受け取ったうえで Meta の委託先の人物と組み、社内の異議申立ての窓口に事実と異なる申請をさせてアカウントを復活させた(この委託先の人物は、その後 Meta から契約を打ち切られた)。2023年3月に Meta が警告書を送り、本人のアカウントを停止した後も、新しいアカウントを作って同じ商売を続けた。
請求の原因は、Instagram の利用規約に反したことによる契約違反と、カリフォルニア州の刑法502条(コンピュータの不正な利用)への違反の二つでした。訴えられたのは、アカウント名を売ったことだけではなく、委託先と組んだ不正な復活も含めた一連の行為です。それでも訴えの中心にあるのは、売買を禁じる規約という「契約」を破ったことでした。
買う側にとって見逃せないのは、訴状の中の一つの記述です。2022年12月ごろ、Folger 氏はあるアカウント名を約3,000ドルで客に売り、Meta はその後、そのアカウントを停止した、と書かれています。訴えられたのは売った個人で、買った客ではありません。けれど、買った客の手元に残ったのは、止められたアカウントでした。
裁判は、合意による差止めで終わった
この裁判は、判決ではなく、双方の合意で終わっています。裁判の記録によると、2025年10月に双方が和解の基本合意に達し、11月7日に提出された合意書で、Folger 氏は、理由を問わず Facebook・Instagram・WhatsApp のアカウントを作ったり使ったりしないこと、Meta のサービスのアカウント名を売らないこと、停止されたアカウントの復活を請け負わないこと、Meta の規約に反しないことを、将来にわたって約束しました(恒久的な差止め)。Meta は、同じ請求で再び訴えることができない形で請求を取り下げ、費用はそれぞれが負担します。裁判所は11月10日にこの合意についての命令を出し、事件は終了しています。
判決で違法と認められたわけではないので、この事件を「売ったら違法」の例として語ることはできません。それでも、規約に反する売買を続けた個人が、最後には Meta のサービスのアカウントを一切持てない立場になった、という結末は、規約が飾りではないことをよく示しています。
アカウントが止められたときの損は、誰が負うのか

では、SNS アカウントを単体で扱う売買サイトは、この問題にどう向き合っているのでしょうか。公開されている規約を見た範囲では、SNS 各社の規約が売買を禁じていることを正面から扱っているところは見当たらず、アカウントが止められたときの損を、規約で買主の負担に寄せている例がありました。
たとえば SNS アカウントを扱うある売買サイトの規約は、購入するかどうかや SNS 側の規約との関係は購入者が自分で確かめること、引き渡し後の検査はアカウントにアクセスできるかどうかと、その時点で表示されている基本的な数値に限ること、不具合の申し出は原則として引き渡しから24時間以内とすること、返品と返金は規約に定める場合を除いて認めないことを定めています。引き渡しから24時間のうちに、ログインできることを確かめた時点で取引は終わり、その後にアカウントが止められても、規約の上では買主が自分で確かめて引き受けたリスク、という扱いになります。
ここで言いたいのは、そうした規約が不当だということではありません。規約に反するのは、取引をする売主・買主と SNS 各社との契約で、売買サイトそのものが SNS の規約の当事者というわけではありません。売買サイトの側からすれば、自分では防ぎようのない凍結の責任まで負うことはできないので、規約で責任の範囲を限るのは、ある意味で自然な設計です(大手のサイト売買の場でも、X や TikTok のアカウントを単体では原則として扱わない、としたところがあります)。
ただ、その設計の結果として、凍結の損はすべて買主に残ります。SNS 各社は規約に反したアカウントを止め、売買サイトは規約で責任の範囲を限り、売主は凍結の責任を負わないと案件に書いている。お金を払った人だけが、何も取り戻せない立場に立つことになります。
RIKKA M&Aの線引きは「SNSかどうか」ではない

RIKKA M&A は、Instagram・X・TikTok などの SNS アカウントを、単体では売買の対象にしていません。利用規約の第4条第9項は「SNSアカウント(Instagram・X・TikTok等)は、単体の売却対象としては取り扱わず、事業譲渡に付随する資産としてのみ承継の対象となります」と定めています。2026年6月にこの線を引き、10月にほかの売買の場の扱いを調べ直したうえで、変えていません。
線を引いている基準は、「SNS かどうか」ではなく、「運営会社が用意した正規の手続きで引き継げるかどうか」です。YouTube チャンネルは、ブランドアカウントの所有者の変更という Google の公式の手順があるので扱います(ブランドアカウントにリンクしたものに限ります)。スマホアプリも、App Store と Google Play の移管の手続きがあるので扱います。Instagram・X・TikTok には、その手続きがありません。
技術DDで確かめようがないものは、扱えない
もう一つの理由は、取引の前に確かめようがないことです。WEBサイトやWEBサービスであれば、コード、サーバー、ドメイン、決済、アクセスの記録といった、譲渡の後も買主の手元に残る資産を一つずつ確かめられます。技術的DDは、そのためにあります。
SNS アカウントの価値の大部分は、フォロワーとの関係と、アカウントが止められないという前提の上に乗っています。その前提は規約一つで崩れ、しかも崩れるかどうかは、売主にも買主にも売買の場にも決められません。取引の前にどれだけ丁寧に調べても、「この先も止められない」ことだけは確かめようがないのです。
RIKKA M&A も、事業に付随する SNS アカウントの承継で凍結や削除が起きたときの責任は負わない、と規約(第15条)に書いています。外部のプラットフォームの判断は、誰にも肩代わりできないからです。だからこそ、凍結された瞬間に価値のほとんどが消えるものを、免責の一文だけで売り買いさせることはしない、と決めています。トラブルが起きたときに「場所を提供しただけです」と言うしかない取引を、最初から扱わないということです。
SNSで集客している事業は扱う
誤解のないように書いておくと、SNS で集客している事業は扱います。売上がその事業の商品やサービスの販売から生まれていて、販売ページ、商品、鑑定や講座の仕組み、顧客との契約といった、アカウントの外の資産も一緒に譲渡する事業であれば、WEBサイトやWEBサービス、EC として出品でき、Instagram や LINE 公式アカウントは「関連SNSアカウント」として、事業と一緒に引き継ぐ対象に含められます。反対に、PR 案件やアフィリエイト、SNS の収益化の分配だけで成り立っているアカウントは、事業の形をとっていても単体の売買と同じ扱いです。条件はSNS・LINEで集客している事業の出品条件にまとめています。
ただし、事業の一部として引き継ぐ場合でも、SNS 各社と LINE の規約が譲渡を制限していることは変わりません。アカウントが引き継げない、あるいは引き継いだ後に止められるリスクは残ります。そのリスクを売主と買主の双方が理解したうえで、止まった場合の扱いを契約で決めておくことが前提です。単体の売買との違いは、アカウントが止まっても、販売ページと商品と顧客との関係が残り、事業が続くことにあります。
SNSアカウントを買う前・売る前に確かめること

最後に、SNS のアカウントを買おうか、売ろうか考えている人が、取引の前に確かめておきたいことをまとめます。どこで取引するにしても、同じことが当てはまります。
収益が、アカウントの外に残るか
PR 案件の報酬、アフィリエイトの成果報酬、プラットフォームからの収益の分配。こうした収益だけで成り立っているアカウントは、アカウントが止まった瞬間に何も残りません。アフィリエイトは、名義が変わった後のASP提携の解除という別のリスクも抱えています。収益をプラットフォーム一つの判断に預ける危うさは、サイトの世界でもAdsense一発BANとして繰り返し起きてきたことです。
反対に、自社の商品やサービス、販売ページ、メールの配信リストや顧客との契約があれば、アカウントが止まっても事業は残ります。フォロワーの数ではなく、アカウントが止まった翌日に何が残るかで値段を考える。これがいちばん大事な物差しです。
止められたときの扱いが、どこに書かれているか
売買サイトの規約、案件の注意書き、売主との契約書のどこに、アカウントが止められたときの扱いが書かれているかを読みます。返金を認めるのか、申し出の期限はいつまでか、引き渡しのときに何を確かめれば取引が終わるのか。「ログインできるか」だけで取引が終わる仕組みであれば、その後に止められた損は、自分に残ると考えて取引するかどうかを決める必要があります。
売る側も、規約違反の当事者になる
売る側も無関係ではありません。Meta が訴えたのは、売った個人でした。規約に反しているのは売主も同じで、売った後にアカウントが止められれば、買主との間で「売主が取り戻したのではないか」という争いになる余地も残ります。SNS で育てた集客の力を手放したいのであれば、販売ページや商品と合わせた一つの事業として売るほうが、売主にとっても説明のつく取引になります。
SNS のアカウントには、確かに人が集まり、お金が動いています。けれど、その土台は、SNS 各社が「売買してはならない」と書いている規約の上にあります。RIKKA M&A がアカウント単体の売買を扱わないのは、その土台が崩れたときに、売った人にも買った人にも守るものが何も残らない取引だからです。アカウントの向こう側に、止まっても残る事業があるか。売るにしても買うにしても、そこから考えてみてください。