YouTubeチャンネル売買の前提条件

YouTubeチャンネル売買の前提条件
YouTubeチャンネルの譲渡可否は、ブランドアカウント上にあるかどうかで決まる。個人のGoogleアカウントに直結したチャンネルはオーナーが1人しか存在できず、管理者の追加も権限の移転もできないため、Gmailや2段階認証ごとアカウントを引き渡す以外に方法がなく、正規の手続きとしては成立しない。売り手は交渉前にブランドアカウントへの移行と、AdSense名義・楽曲ライセンス・出演許諾の棚卸しを済ませ、買い手は管理者の招待画面を実物で確認したうえで、収益の帰属時点を書面で固定することになる。

YouTubeチャンネルの売買は、もう珍しい話ではなくなりました。登録者数と総再生時間と収益のスクリーンショットが並び、月商の何倍という相場感で値段がつき、条件がまとまっていく。ところが、いざ引き渡しの段になって交渉が丸ごと消えてしまう瞬間があります。買い手が「このチャンネル、ブランドアカウントですか」と尋ねたときです。

ここで「いえ、自分のGoogleアカウントで作ったまま10年やってきました」という答えが返ってきた場合、その案件は成立しないか、あるいは全員が薄々まずいと気づいている方法で強行されるかの二択になります。厄介なのは、この分岐が売り手の努力とも誠実さとも、コンテンツの面白さとも一切関係のないところで決まっていることです。まだ売るつもりなど微塵もなかった何年も前、チャンネルを「どう作ったか」の一点で、すでに結論が出ている。

この記事では、YouTubeチャンネルの売買が成立するかどうかを決めている前提条件を、移管・収益化・権利・出演者という4つの層に分けて整理していきます。順番に読めば、自分のチャンネルがどちら側にいるのかは30分で判定できます。

チャンネルは「持っている資産」ではなく、アカウントにぶら下がった権限

チャンネルは「持っている資産」ではなく、アカウントにぶら下がった権限

まず、感覚をひとつ入れ替えるところから始めます。

WEBサイトの売買であれば、渡すものの実体がはっきりしています。ドメインの使用権と、サーバーの中のファイルと、データベース。最悪サーバーが飛んでも、バックアップさえあれば別の場所で建て直せます。物理的に手元にあるものが、それなりに多い。

YouTubeチャンネルは、まったく事情が違います。動画も、登録者も、再生履歴も、コメントも、アルゴリズムからの評価も、すべてGoogleのサーバーの中にあります。売り手の手元にあるのは、せいぜい編集前の素材データくらいで、事業の実体にあたる部分は一片たりとも自分の手元にありません。持っているのは「そのチャンネルを操作できる権限」だけです。

ということは、チャンネルを売るという行為の正体は、資産の受け渡しではなく権限の付け替えということになります。そして権限がどう構成されているかは、売り手が決められることではありません。YouTube側の仕組みが決めています。ここに、チャンネル売買の全論点が集約されています。渡せるかどうかは、渡したい気持ちの強さではなく、権限の構造で決まる。

その権限の構造を分けているのが、ブランドアカウントの有無です。

ブランドアカウントの有無で、運命が真っ二つに分かれる

ブランドアカウントの有無で、運命が真っ二つに分かれる

YouTubeのチャンネルには、大きく2つの生まれ方があります。どちらで生まれたかで、売買の可否がそのまま決まります。

個人のGoogleアカウント直結の場合(=渡せない側)

Googleアカウントを作り、そのままYouTubeでチャンネルを開設した場合、そのチャンネルはあなたのGoogleアカウントそのものです。チャンネルという独立した箱があるわけではなく、アカウントの一機能として生えている状態に近い。

この構成の何が問題かというと、オーナーが1人しか存在できず、管理者を追加することもできない点です。つまり、他人にチャンネルの運営を正規に引き継ぐ手段が、仕組みとして用意されていません。

では実務ではどうしているかというと、答えはひとつしかありません。Googleアカウントのメールアドレスとパスワードごと渡すのです。技術的には、これで動きます。動いてしまうのが最悪なところで、この方法には次の破綻が同時に発生します。

  • Googleアカウントには人生の全部がぶら下がっている: Gmail、ドライブ、写真、支払い情報、そして「Googleでログイン」で連携した無数の外部サービス。チャンネルを渡すために、これらを全部渡すことになります。逆に売り手から見れば、10年分の私信が入った箱を他人に手渡す話です
  • 2段階認証が売り手の身体に紐づいている: 認証アプリも、SMSの届く番号も、リカバリの連絡先も売り手のものです。買い手はチャンネルを買ったはずなのに、ログインのたびに売り手へ連絡することになります
  • 売り手側がいつでも取り戻せる: リカバリ経路が売り手に残っている限り、買い手の支配は暫定的なものにすぎません。信頼関係だけが担保という状態です
  • そもそもGoogleアカウントの譲渡には正規の手続きが存在しない: 個人に発行されるものとして設計されており、売買を想定した仕組みが用意されていません

これはアカウント名義の問題としては典型的な形で、しかもYouTubeの場合は逃げ道がほぼ塞がれています。渡せないものは、どれだけ誠実でも渡せない。

ブランドアカウントの場合(=渡せる側)

一方、ブランドアカウント上に作られたチャンネルは、まったく別の生き物です。

ブランドアカウントは、個人のGoogleアカウントとは切り離された「チャンネルの器」として機能します。ここに複数のGoogleアカウントを、主なオーナー・オーナー・管理者といった役割で紐づけられます。そして重要なのは、主なオーナーを別のGoogleアカウントへ移すことができる点です。

やることは、買い手のGoogleアカウントをオーナーとして招待し、承認してもらい、主なオーナーの権限を移し、売り手側の紐づけを外す。これだけです。Gmailも私信も渡りません。パスワードの共有も発生しません。買い手は自分のGoogleアカウントで、自分の2段階認証で、自分の端末からチャンネルを運営できます。

同じ登録者数、同じ収益、同じコンテンツのチャンネルであっても、この一点の違いだけで、片方は正規に売れて、もう片方は売れない。理不尽に見えますが、これがYouTubeという資産の性質です。

「じゃあ今から移せばいい」の落とし穴

ここで当然、「移行できるなら移行すればいいのでは」という話になります。実際、YouTubeにはチャンネルをブランドアカウントへ移行する機能が用意されており、これは正しい方向の一手です。売る予定がなくても、やっておく価値があります。

ただし、クロージング前夜に思いつきでやる作業ではありません。

移行の可否には条件があり、たとえば移行先のブランドアカウントに既に別のチャンネルが存在する場合は受け入れられません。加えて、移行の実行時には引き継がれないデータがある旨の警告が表示されます。何が失われ得るかはチャンネルの構成や利用している機能によって変わるため、「動画と登録者が残るなら他は誤差だろう」と流さず、警告文を実際に読んでから判断する必要があります。メンバーシップやコミュニティの積み上げが収益の柱になっているチャンネルほど、ここは慎重にやるべき工程です。

そして権限の移動そのものにも、招待と承認という相手のある手続きが挟まります。ボタンひとつで即時完了する類のものではありません。引き渡し当日のタスクリストに入れる作業ではなく、交渉が始まる前に終わらせておく作業だと考えてください。

収益化(YPP)は、チャンネルの引き継ぎとは別レイヤーにある

収益化(YPP)は、チャンネルの引き継ぎとは別レイヤーにある

ブランドアカウントで、主なオーナーも無事に移せた。これで一件落着かというと、まだ半分です。買い手が買った理由である収益の部分が、実は別の層に乗っているからです。

YouTubeの収益化は、チャンネルがYouTubeパートナープログラム(YPP)に参加していることで成立しています。そして支払いの受け皿は、チャンネルではなくAdSenseアカウントです。ここが分離していることの意味を、正確に捉えておく必要があります。

AdSenseアカウントは、個人または法人の本人確認と銀行口座と税務情報の上に成り立っています。中の人だけを差し替えることは想定されていません。つまり、チャンネルの管理者を綺麗に差し替えても、収益の受け皿は自動的には移動しません。放置すれば、買い手が運営しているチャンネルの売上が、売り手個人の口座に入り続けるという状態が生まれます。

「あとでまとめて振り込みますね」という運用でこれを回そうとする取引は、現実に存在します。悪意がなくても、これは他人の売上金を個人口座で預かっている状態です。広告アカウントの譲渡ができないという制約は、YouTubeでもそのまま牙を剥きます。

実務として最低限詰めておくべきなのは、いつの時点の再生分から、どちらの口座に入るのかという一点です。切り替えの前後で発生した収益の帰属、月次の締めと支払いのタイミング、そして切り替え作業のあいだに収益化ステータスへ影響が出ないかの事前確認。この3つを口頭ではなく紙で合意しておかないと、引き渡しの翌月に必ず揉めます。金額の話ではなく、順序の話で揉めるのです。

チャンネルが渡っても、コンテンツの権利は渡らない

チャンネルが渡っても、コンテンツの権利は渡らない

権限も収益も整理できたとして、次に残るのが権利の層です。ここは見落とされやすい一方で、後から効いてきます。

チャンネルの主なオーナーが変わるということは、過去にアップロードされた全動画の運営主体が変わるということです。すると、その動画に使われている素材の利用許諾が、新しい運営主体にも及ぶのかという問題が発生します。

典型的なのはBGMです。サブスクリプション型の楽曲ライセンスは契約者に紐づいており、契約者が変わったときに既存動画のライセンスがどう扱われるかは、そのサービスの規約次第です。「支払っていたのは売り手個人、運営しているのは買い手」という状態を、ライセンス側がどう見るか。ここを確認しないまま数百本の動画を引き渡すと、買い手は権利処理の済んでいない動画を数百本抱えることになります。

外注編集者が作ったサムネイルやモーショングラフィックスも同じ構造です。制作物の著作権が譲渡されているのか、それとも利用許諾にとどまるのか。許諾だとすれば、その許諾は運営主体が変わっても続くのか。契約書がない場合、この問いに答えられる人は取引のテーブルに誰もいません。著作権・肖像権まわりの詰めが甘い案件は、渡した後に静かに時限爆弾が起動します。

MCNに加入しているチャンネルであれば、そこも確認が必要です。ネットワークとの契約には期間や解約条件が定められているのが通常で、チャンネルの支配権が変わることを契約がどう扱うかは、その契約書にしか書いてありません。チャンネルの権限は移せたのに、契約の相手方が変わることを認めていない、という順序の事故はあり得ます。

最も移管できない資産は、出演者そのもの

最も移管できない資産は、出演者そのもの

ここまでは手続きの話でした。最後に、手続きでは絶対に解決しない層について書きます。

チャンネルの価値が特定の人物の存在に支えられている場合、その人物は譲渡の対象になりません。当たり前ですが、人は資産ではないからです。

買い手は登録者数を見て値段をつけます。しかし視聴者が登録ボタンを押した理由は、チャンネルIDでもサムネイルの色でもなく、そこに映っている人だったという場合があります。その人が抜けた瞬間、登録者という数字は残っているのに、次の動画の再生数だけが別のチャンネルのものになる。これが、出演者依存の正体です。

誤解のないように書いておきたいのですが、これはチャンネルの欠陥ではありません。むしろ逆です。その人にしか出せない空気があるからこそ、そのチャンネルは伸びたのであって、それは作り手が長い時間をかけて獲得した、疑いようのない実力です。ただ、実力が個人の中にあるという事実は、そのまま「引き継げない」という事実でもある。育てた個性が強ければ強いほど売りにくくなるというのは、なかなか報われない構造だと思います。

だからこそ、この論点は「隠して売る」のではなく「正直に構造として説明する」ほうが結果的に売り手を守ります。買い手が後から気づいた場合、それは価格交渉ではなく信頼の話になってしまうからです。

実務では、しばらく元の出演者が動画に出続ける、という移行期間が設けられることがあります。これ自体は合理的な設計です。ただし、対象・回数・期間・報酬を紙に書かずに始めると、ほぼ確実に無給サポート地獄になります。「たまに顔を出してくれれば」という善意の口約束は、半年後には義務として運用されています。期限のない移行期間は、移行しません。

出演者が売り手本人ではなく第三者だった場合は、さらに手前の確認が要ります。過去動画に映っている人の出演許諾が、運営主体の変更後も有効なのか。「あなたの動画に出るつもりだったのであって、知らない会社の資産になるとは聞いていない」と言われたとき、拠り所になるのは書面だけです。

売り手が、交渉より前にやること

売り手が、交渉より前にやること

やることは多くありません。半日あれば足ります。

まず、自分のチャンネルがブランドアカウント上にあるかを確認します。YouTubeの設定から、チャンネルの管理者を追加できる画面が存在するかどうかを見れば分かります。ここが分岐点で、ブランドアカウントでなければ、他の何よりも先に移行の検討を始めてください。売却の準備というより、事業として当たり前の形に戻す作業です。

次に、収益の経路を1枚に書き出します。どのAdSenseアカウントに紐づいているか、そのアカウントの名義は誰か、入金先の口座は誰のものか。ここが個人名義のままなら、それは事業と自分がまだ切れていないという意味です。

そして、過去動画に含まれる第三者の権利を洗い出します。BGMのライセンス、素材の出所、編集の外注契約、出演者の許諾。全動画を1本ずつ確認するのは現実的ではないので、まずは契約とサービスの単位で棚卸しすれば十分です。

最後に、出演者依存の度合いを自分で言語化しておきます。ごまかす必要はありません。「顔出しの回で伸びている」なら、それは事実として買い手に伝わる情報にしておいたほうが、後から効きます。

この4点は、事業譲渡の契約を作るときの譲渡対象資産の一覧に、そのまま化けます。「チャンネル一式」という書き方で契約すると、何が含まれていたのかを後から争う余地が残ります。棚卸しの表は、そのまま契約書の別紙になる資料です。

買い手が確認すること、査定への織り込み方

買い手が確認すること、査定への織り込み方

買い手側の順序は単純です。ブランドアカウントかどうかを最初に聞く。ここが不合格なら、他の項目を調べる意味がありません。収益性の分析も、コンテンツの評価も、正規に引き継げない資産に対して行っても無駄になります。

確認は質問ではなく実物で行うべきです。「渡せますよ」という口頭の答えではなく、管理者の招待画面を実際に開いてもらう。移行済みだと言うなら、その画面を見せてもらう。5分で終わる確認を飛ばしたせいで、数百万円の話が最終盤で白紙に戻るのは、あまりに惜しい。

査定への織り込み方は、次のように整理できます。

  • ブランドアカウント + 出演者非依存 + 権利の裏付けあり: この論点で減点する理由はありません。純粋にコンテンツと数字の話をすればよい案件です
  • ブランドアカウントだが出演者依存が強い: 引き継げるのは過去の再生と登録者であって、将来の再現性ではありません。移行期間の設計と、その期間が終わった後の運営体制を、価格の前に決める話になります
  • 個人のGoogleアカウント直結: まず移行が可能かを確認し、移行を取引の前提条件に据えるのが筋です。アカウントごと受け取る前提で値段を出すのは、規約の外側で事業を運営する覚悟とセットになります

もうひとつ、買い手が見落としがちな点を挙げておきます。アカウントの状態が整理されているチャンネルは、たいてい他の管理も整っています。逆もまた同じで、権限の構造に無頓着な運営者は、権利の処理にも同じ程度に無頓着であることが多い。ブランドアカウントの確認は、単体の可否判定であると同時に、その事業全体の解像度を測る最初のセンサーでもあります。

売買の可否は、チャンネルを作った日に決まっている

売買の可否は、チャンネルを作った日に決まっている

この記事で書いてきたことを一行にまとめると、こうなります。YouTubeチャンネルが売れるかどうかは、交渉が始まる何年も前、チャンネルを開設した日の選択で、すでに決まっている

これは残酷な話に見えますが、裏返せば救いのある話でもあります。今日ブランドアカウントへ移しておけば、5年後の自分の選択肢がひとつ増えるということだからです。そして、その一手は売却のためだけの作業ではありません。チャンネルが自分の人生から独立して動く状態を作るという作業です。

体調を崩したとき。まったく別のことをやりたくなったとき。誰かに運営を手伝ってもらいたくなったとき。そのすべての場面で、権限を分けられるという一点が効いてきます。個人のGoogleアカウントに全部を握らせている状態は、売れないという以前に、自分ひとりが倒れたら全部が止まるという構造そのものです。

何年もかけて、企画を考え、撮り、編集し、サムネイルを作り直し、伸びない時期を耐えて積み上げてきたチャンネルには、正当な値段がつくべきです。その値段を守るのは、動画のクオリティでも、編集のセンスでもなく、設定画面の中にある「ブランドアカウント」という地味な一項目のほうです。

売るかどうかを決めるのは、まだ先でかまいません。ただ、売れる状態にしておくことだけは、今日できます。

チャンネル移管の前提が整ったら、次に気になるのは売却額でしょう。YouTubeチャンネル売却の無料査定で、想定売却額のレンジを試算できます(登録不要)。

この記事の著者

黒沢 大輔

株式会社studio C 代表取締役

これまで4回の事業譲渡を実現。上場企業にてエンジニア、制作ディレクション、SEO事業立ち上げを歴任。副業で始めた複数の掲示板サイトを国内最大規模まで成長させて事業譲渡。日本のM&Aに透明性と精度をもたらすべく、デジタル事業のM&Aプラットフォーム『RIKKA M&A』を立ち上げ。