WELQショックでGoogleに殺されかけた日

Googleに殺されかけた日。WELQショックで検索順位が崩壊した@メンタルヘルスとそれでも価値は死ななかった理由
Googleのアルゴリズム変動やAdsenseの誤BANによる「外部要因での数字毀損」と「サービス本来の価値毀損」は別物であり、コミュニティの活動やニーズが続いている限り前者は過小評価すべきではない。売り手は下落原因を客観的な記録で証明し、それを理解できる相手と交渉すべきという示唆がある。

「このサイト、Googleのアップデートで順位が落ちているので、査定額を下げさせていただきます」

M&A仲介を通じて事業売却を検討した経験のある方なら、似たような言葉を聞いたことがあるかもしれません。あるいは、アクセスが落ちてきたことを自覚していて、「もう売れないんじゃないか」という不安を抱えたまま、売り時を逃し続けている方もいるかもしれない。

でも、少し待ってください。

Googleのアルゴリズムが変動したことで検索順位が落ちた、Adsenseアカウントが突然BANされた、サーバー会社の障害で長期間ダウンした——そういった「外部要因による数字の毀損」と、「サービスそのものの価値の毀損」は、まったく別の話です。この2つをごちゃ混ぜにしたまま査定を受けると、あなたのサイトは確実に過小評価されます。

私自身、Googleというネットの神(いや、あの時ばかりは邪神と呼びたかったですが)のアルゴリズム変動で、国内最大規模のメンタルヘルスコミュニティの検索順位を大幅に落とした経験があります。それは2016年の冬のことです。

あの日に感じた怒りと、しかしそれでもサービスの価値は微塵も失われていないという確信——その実体験をもとに、「Googleのアップデートで落ちたサイトは、本当に終わりなのか」という問いに正面から答えます。

2016年冬、業界に激震が走った——「WELQショック」とは何だったのか

2016年冬、業界に激震が走った——「WELQショック」とは何だったのか

2016年11月、DeNAが運営する医療情報キュレーションサイト「WELQ(ウェルク)」が、ネット上で大炎上しました。

DeNA「WELQ」事件の全貌——医療情報の闇が引き金を引いた

WELQは、医師や専門家の監修なしに、根拠の怪しい医療・健康情報を大量に量産・掲載していたキュレーションメディアです。「肩こりは霊のせい」といった非科学的な記述から、薬の副作用を誇張した不安煽りコンテンツまで、医療情報として到底許容できない内容が堂々とGoogleの検索上位に居座っていました。それも、DeNAという大企業のドメインパワーを背景に。

この問題が大規模に報道され、社会問題化したことで、DeNAはWELQを含む複数のキュレーションサイトを一斉に閉鎖しました。そしてGoogleも動きます。医療・健康に関するコンテンツの品質評価を根底から見直す、大規模なアルゴリズムアップデートを実施したのです。これが、後に「WELQアップデート」「医療アップデート」などと呼ばれることになる、業界を揺るがした一大変動です。

Googleが「医療・健康コンテンツの質」を根底から問い直した日

このアップデートの根幹にあるのが、Googleが品質評価の基準として掲げる「E-E-A-T」という概念の強化です。特に医療・健康・金融といった「人の命やお金に直結するジャンル(YMYL:Your Money or Your Life)」において、コンテンツの品質基準が一気に引き上げられました。結果として、医師や医療機関が運営するサイトが優遇され、専門家の監修がないサイトは検索順位を大幅に下げられることになります。

Googleが価値の基準を書き換えた——「E-E-A-T」とは何か

Googleが価値の基準を書き換えた——「E-E-A-T」とは何か

このコラムを読んでいる方の中にも、SEOの文脈でE-E-A-Tという言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。改めて整理しておきます。

4つの評価軸(経験・専門性・権威性・信頼性)が意味するもの

E-E-A-Tは、以下の頭文字を取った造語です。

Experience(経験):コンテンツ作成者が、そのテーマについて実際の経験を持っているか。

Expertise(専門性):そのテーマに関する深い知識・スキルを持つ専門家が書いているか。

Authoritativeness(権威性):その分野において、他のサイトや人物から信頼・引用されているか。

Trustworthiness(信頼性):情報の正確性・透明性・安全性が担保されているか。

これらの基準は、決して間違っていません。根拠のない医療情報を大量に垂れ流すWELQのようなサイトがペナルティを受けるのは、当然の帰結です。問題は、このアルゴリズムが「医療機関が書いたか否か」という形式的な判断に偏った結果、形式基準を満たさなくても本物の価値を持つサービスまで巻き込んでしまったことにあります。

なぜ医師や医療機関のサイトが優遇され、コミュニティは弾かれたのか

Googleのアルゴリズムは、テキストの内容を解析することはできても、「このコミュニティが、精神的に追い詰められた人々にとって実際にどれほど機能してきたか」という定性的な価値を正確に評価することは、少なくとも当時はできませんでした。監修医師の名前がクレジットされているかどうか、運営会社の概要ページが充実しているかどうか——そういった「形式」でしか、品質を測れなかったのです。

「うつ病3位」「アスペルガー5位」が崩れていった——あの日、画面を見て感じた怒りの話

「うつ病3位」「アスペルガー5位」が崩れていった——あの日、画面を見て感じた怒りの話

当時、私が運営していた「@メンタルヘルス」は、「うつ病」で国内3位、「アスペルガー症候群」で5位というポジションを長年にわたって維持している、国内最大規模のメンタルヘルスコミュニティサイトでした。医師が診断した患者同士が情報交換し、同じ症状を持つ人間と繋がれる場として、多くのユーザーに必要とされていたサービスです。

WELQアップデートの影響は、じわじわと、しかし確実に検索順位に現れてきました。長年守り続けてきたキーワードの順位が、見る見るうちに下がっていく。Search Consoleのグラフが折れ曲がる様子を眺めながら、私は複雑な感情を抱えていました。

怒りは、主にGoogleに対してではありませんでした(まあ、ゼロではなかったですが)。本当の怒りは、WELQのような杜撰なコンテンツを大量に垂れ流した張本人と、それを長期にわたって野放しにしていたGoogleの怠慢に対してです。そのツケを、真面目に運営していた側まで払わされる理不尽さに、「言いたいことは山ほどある」という状態でした。(が、ネットの神ことGoogleには逆らえません。邪神だったとしても。)

ネットの邪神・Googleは間違えるのか——アルゴリズムが「真っ当なサービス」を道連れにする時

ネットの邪神・Googleは間違えるのか——アルゴリズムが「真っ当なサービス」を道連れにする時

WELQの罪は明らかです。根拠のない医療情報を量産して広告収益を得るビジネスモデルは、ユーザーを傷つけるリスクがある。ペナルティを受けて当然でした。

WELQの罪は明らかだ。しかし、なぜ健全なコミュニティまで巻き込まれたのか

問題は、Googleのアルゴリズムが「健全に運営されたメンタルヘルスコミュニティ」と「WELQのような粗悪なキュレーションメディア」を、同じ「医療・健康ジャンルの非専門家サイト」として処理してしまったことです。

医師の名前のクレジットがない、医療機関の後ろ盾がない——それは事実です。しかし、当時の日本において、メンタルヘルスをテーマにしたコミュニティサイトをまともに運営していたプレイヤーが、どれほどいたでしょうか。精神疾患を抱えた人々が、自分と同じ症状を持つ人間と安心して話せる場所は、医療機関の外では極めて限られていました。そのニーズに真っ向から応えていたのが、@メンタルヘルスというサービスだったのです。

「メンタルヘルスで同じ症状の人と話したい」——このニーズは、検索順位が落ちたら消えるものではない

ここが核心です。Googleの検索結果から順位が下がることで、新規流入は確かに減少しました。しかし、精神的に辛い状況にある人が「自分と同じ症状の人と話したい」と思う気持ちは、Googleのアルゴリズムがどう変わろうと、1ミリも変わりません。ニーズそのものは、生き続けているのです。

SEOの数字は落ちた。しかし、コミュニティの価値は1ミリも落ちていなかった

SEOの数字は落ちた。しかし、コミュニティの価値は1ミリも落ちていなかった

順位下落から数ヶ月が経過した頃、私はある事実に気づきました。サービスのアクセス総数は確かに減少している。しかし、コミュニティ内のアクティビティ——投稿数、ログイン頻度、ユーザー同士のやりとりの密度——は、ほぼ変わっていない。

Twitterからの流入が示したもの——「検索に依存しない生身のユーザー」の存在

その理由の一つが、Twitter(現X)からの流入でした。@メンタルヘルスでは、診断コンテンツがXのトレンド入りを繰り返していたこともあり、Google検索以外のルートでサービスを知ったユーザーが継続的に流入していました。これは、Googleのアルゴリズムが何をしようと関係のない、プラットフォーム非依存の需要です。

そして何より、一度コミュニティに参加して居場所を見つけたユーザーは、Googleの検索結果がどうなろうとサービスに戻ってきます。彼らは「検索ユーザー」ではなく「コミュニティのメンバー」だからです。MAUが維持されていたという事実は、「このサービスのコアバリューは消えていない」という証明でした。

競合がいない事実は変わらない——本物のニーズは、Googleのアルゴリズムでは消えない

もう一つ重要な事実として、WELQアップデート後も、国内にまともに運営されているメンタルヘルスコミュニティは、依然として存在していませんでした。Googleが上位に表示した医師のサイトや医療機関のコラムページは、「情報を提供する」場所ではあっても、「同じ症状を持つ人間と話せる」場所ではありませんでした。ニーズに対する代替が存在しない状況は、アップデート前と何も変わっていなかったのです。

これは、査定という観点から見れば極めて重要な点です。競合が存在しない、代替が存在しない——それは、Googleの順位に関係なく、そのサービスの市場における希少性と必要性が失われていないことを意味します。

プラットフォームの横暴は、これだけではない——Adsense突然BAN・サーバー障害が招く「外部要因の地雷」

プラットフォームの横暴は、これだけではない——Adsense突然BAN・サーバー障害が招く「外部要因の地雷」

WELQアップデートの話をしてきましたが、プラットフォームの理不尽はGoogleのアルゴリズムに限りません。Webサービスの運営者であれば、誰もが多かれ少なかれ、外部要因による予期せぬ打撃を経験しているはずです。

Googleに「出会い系」と誤認定され、2ヶ月分の売上を没収された話

私自身が経験した別の事例を話します。月間6,000万PVまで成長させた「@メル友」というコミュニティサービスで、ある日突然Googleから通知が届きました。「出会い系サイトと判定されたため、Adsenseアカウントを停止する」と。

警察庁が参加する「青少年ネット利用環境整備協議会」のメンバーとして、総務省・警察庁と連携しながら青少年保護に尽力してきたサービスが、です。(今思い出しただけでも怒りが込み上げてくるので、この話はまた不当訴訟を経験した実話で改めて詳しく書きます。)

この一件で、2ヶ月分の売上は没収されました。アカウントは数ヶ月にわたって停止状態に置かれ、収益は激減しました。しかしその間も、サービスへのアクセスは続き、ユーザーはコミュニティに集い続けました。Googleの判断は理不尽極まりないものでしたが、サービスそのものの価値は傷ついていなかった。

プラットフォーム依存が招く本当のリスクと、それでも資産が残る条件

Adsenseの突然BAN、Googleアルゴリズムの変動、サーバー会社の大規模障害——これらに共通するのは、「サービス運営者に一切の責任がない外部要因で、数字が毀損される」という点です。

そして重要なのは、これらのイベントが査定のタイミングと重なった場合、財務の数字だけを見る業者は必ず「この下落を織り込んで」評価してしまうという問題です。「現在の売上が低いから、相場の12倍で計算するとこの金額になります」——その計算式は、なぜ数字が落ちているのかという「原因の性質」を一切考慮しません。

「売上が落ちたサイト」はもう売れないのか——逆転の発想

「売上が落ちたサイト」はもう売れないのか——逆転の発想

ここで、少し視点を変えてみます。「売上が落ちたから今は売れない」という判断は、本当に正しいのでしょうか。

低迷期こそが売り時になりうる、という残酷な真実

逆説的ですが、「売上が最高潮の時に売る」ことが、必ずしも最善ではないケースがあります。なぜなら、売上が最高潮の時というのは、多くの場合、あなた自身がそのサービスに最もリソースと情熱を注いでいる時期でもあるからです。その状態で手放すことへの心理的抵抗は大きい。

一方、「外部要因によって一時的に数字が落ちた状態」は、ビジネスとしての本質的価値は毀損していないにもかかわらず、精神的な疲弊や将来への不安から「そろそろ手放したい」という気持ちが芽生えやすい時期でもあります。この心理状態と、「数字では低く見えるが本質的価値は高い」という状況が重なった時、適切な相手に適切な価格で譲渡することは、売り手にとって合理的な選択になり得ます。

問題はアクセスではない、「誰も代わりを作れていないか」だ

売れるかどうかの本質的な判断基準は、「今のアクセス数や売上」ではなく、「そのサービスが満たしているニーズに、代替が存在するかどうか」です。アクセスが半減していても、競合が存在せず、コアユーザーが残り続け、ニーズ自体が生きている——そうしたサービスには、確実に価値が残っています。

外部要因で毀損したサイトの「本当の価値」を見抜く3つの問い

外部要因で毀損したサイトの「本当の価値」を見抜く3つの問い

では実際に、Googleの変動やBANなど外部要因で数字が落ちたサイトが「まだ価値を持つか否か」を判断するには、どのような問いを立てればよいか。私が実務から導いた3つの問いを提示します。

① その落ち込みは、アルゴリズム起因か、コンテンツ品質起因か

アクセスや売上の下落が「外部のアルゴリズム変動や規約変更が原因」なのか、「コンテンツや運営の質そのものが劣化したことが原因」なのかは、根本的に意味が異なります。前者は回復の余地があり、場合によっては新たな運営者のもとで改善できる。後者は、サービスそのものの価値が失われていく過程にある。Google Search Consoleの変動履歴とアルゴリズムアップデートの時系列を照合することで、だいたいの判断はつきます。

② 検索以外のトラフィックや直接流入は生きているか

X(旧Twitter)、Instagram、メルマガ、ブックマーク経由の直接流入——これらが生きているかどうかは、「検索に依存しない本物のファン・ユーザーが存在するか」の指標になります。Googleに依存しない流入源がある程度残っているサービスは、アルゴリズム変動の影響が相対的に小さく、回復力も高い。

③ ニーズそのものは、今も市場に存在するか

サービスが提供していた価値——情報、コミュニティ、ツール、エンターテインメント——に対するニーズが、今も市場に存在しているかどうかを問います。競合が十分でない、代替手段が貧弱、ユーザーのリアルな声が今もSNSやレビューに残っている——こうした事実は、「ニーズは消えていない」という証拠になります。

プラットフォームの理不尽と戦ってきた者だからこそ言える——「正当な評価」を得るために、売り手がやるべきこと

プラットフォームの理不尽と戦ってきた者だからこそ言える——「正当な評価」を得るために、売り手がやるべきこと

Googleのアルゴリズムに翻弄され、Adsenseに理不尽な判断を下され、外部プラットフォームの都合に振り回され続けながらも、サービスを守り続けてきた運営者は多いはずです。そういった経歴を持つサービスを、「今の売上が低いから安い」という一言で片付けられてしまうなら、それは売り手にとって極めて不当な評価です。

正当な評価を得るために、まず売り手がやるべきことがあります。それは、数字が落ちた「原因の証明」を用意することです。「このタイミングのアクセス低下は、2016年のWELQアップデートに連動したものです。Search Consoleのデータで確認できます」「このAdsense停止は、Googleの誤認定によるもので、その後撤回されています」——こうした事実の記録は、査定の場において「本質的価値が毀損していないこと」を示す最も強力な証拠になります。

そして、その証拠を理解できる相手と交渉することが、次に重要です。Search ConsoleのデータとGoogleのアップデート履歴を突き合わせて「このサイトはアルゴリズム変動が原因で、コンテンツ品質に問題はない」と判断できる技術力を持った査定者でなければ、あなたの資料は宝の持ち腐れになります。

Googleはこれからも変わり続けます。プラットフォームは理不尽な判断を下し続けます。それでも、あなたが育てたサービスの本質的な価値は、外部の機嫌によって左右されるほど脆くはないはずです。数字が語らない部分に宿る価値を、正確に見抜ける目を持った人間を選んでください。

この記事の著者

RIKKA M&A 編集部

これまで4回の事業譲渡を実現。上場企業にてエンジニア、制作ディレクション、SEO事業立ち上げを歴任。副業で始めた複数の掲示板サイトを国内最大規模まで成長させて事業譲渡。日本のM&Aに透明性と精度をもたらすべく、デジタル事業のM&Aプラットフォーム『RIKKA M&A』を立ち上げ。