売り手向け

デジタル事業を売却する売り手向けに、安全に・適正な価格で成約するための実務知見を扱うカテゴリです。仲介業者の選び方、買収後サポートの適切な線引き、買い手に不安を与えないための法令遵守・情報開示のポイントなど、成約後のトラブルを防ぐための売り手側の備えを解説します。

監査ログがない事業は自分を守れない

監査ログは平時に1バイトの価値も生まないが、係争になった瞬間に当事者の唯一の武器へ変わる。引き渡し後に「データが消えた」と主張されたとき、記録が無ければ売り手は「やっていない」としか言えない。取得・改ざん耐性・保存期間の3点を実務の順序で整理する。

誰の権限も剥がせない事業を買う怖さ

少人数の事業では「全員が管理者」が最適解であり、権限の粒度が存在しない。だが売却では、誰が何を持つかの一覧が無く、剥がすと何が壊れるかも分からず、買い手は何も剥がせないまま運用を始めることになる。権限が人格に癒着した事業は、独立した資産として切り出せない。

検索の精度は移管で静かに劣化する

サイト内検索のシノニム辞書やランキング調整は、何年もの運用で管理画面の中だけに育てられた資産であり、移管でインデックスを張り直すとデータは全件揃ったまま検索結果の質だけが巻き戻る。エラーもアラートも出ない静かな劣化の構造と、買い手が要求すべき現物を整理する。

マイグレーション履歴のないDBの怖さ

マイグレーション履歴はデータベースの設計図に対する版管理にあたる。これが本番と食い違う事業では、手元のコードから本番と同じスキーマを再現できず、買い手が環境を立てても本番と同じテーブルにならない。空のDBに全部当ててdiffを取れば数分で確認できる。

戻せないバックアップは無いのと同じ

DDで「バックアップは取っていますか」と聞いても何も確認できていない。取得は自動化されるが復元は誰も試していないためだ。手順書の不在、ファイルとシークレットの取得漏れ、環境差分、復号キーの同居、個人アカウント保存という五つの型と、検証手順を解説する。

個人開発アプリの価値を消すストア規約

個人開発アプリの売却では、ストア規約と審査基準が事業側の都合と無関係に改定され、昨日まで通っていた実装が明日は違反になる。買い手が見るのは今の審査合否ではなく、規約変更に追随できる作りかどうかだ。価値が消える4か所と追随可能性の測り方を整理する。

サイト売買の失敗は引き渡し後に始まる

サイト売買の失敗は交渉でも契約でもなく、引き渡しの数週間〜数ヶ月後に顕在化する。引き渡し日には全部動いて見えるからだ。月次バッチ、証明書の期限、ドメイン更新、定期課金のサイクルという当日には観測できない周期を、買い手と売り手がどう検査すべきかを整理する。