サイト売却の相場を消す被リンク依存

サイト売却の相場を消す被リンク依存
サイト売却の相場として語られる「月間利益の24ヶ月分」という倍率は、その利益が同じ月数だけ続くという前提の上にのみ成立する。有料リンクや自作自演リンクで順位を支えている事業は、利益の継続月数が「Googleが気づいていない期間」と一致し、期待値を計算できないため、倍率が下がるのではなく倍率という計算そのものが成立しなくなる。売り手は指名検索・直接流入といった順位に依存しない流入の比率を数字で示し、買い手がリスクを切り分けられる状態を作る必要がある。

「サイト売却 相場」と検索すると、だいたい似たような数字が並びます。月間利益の24ヶ月分。営業利益の2〜3年分。案件によっては36ヶ月分。幅こそあれ、どのページも同じ構造の掛け算を提示していて、読んだ側は「うちは月20万円だから、480万円くらいか」と暗算します。ここまでは、誰でも5秒でできます。

ところが、その暗算が交渉のテーブルで通用しない案件が、一定の割合で存在します。しかも通用しない理由が「利益が少ないから」でも「成長が止まっているから」でもない。数字はきちんと出ている。落ちてもいない。それなのに買い手が出してくる金額が相場の半分だったり、そもそも倍率の話にすらならず「条件付きでなら」という、まったく別の種類の会話に切り替わったりします。

この切り替わりを引き起こす論点はいくつかありますが、Webサイトの売買において最も静かに、そして最も深く効いているのが、その流入をどうやって作ってきたかという一点です。今日はここを、価格の側から解きほぐしていきます。

相場の正体は「この利益が何ヶ月続くか」という賭けの値段

相場の正体は「この利益が何ヶ月続くか」という賭けの値段

まず、相場という言葉が実際には何を指しているのかを、一度分解しておきます。

Webサイトの売買価格は、ほとんどの場合「月間利益 × 倍率」という形で提示されます。この倍率が24なら480万円、36なら720万円。ここで見落とされがちなのは、倍率という数字が、実質的には「この利益が何ヶ月続くと見込むか」の言い換えでしかないということです。

買い手は、24ヶ月分の利益を今日まとめて前払いします。前払いした金額を取り戻せるのは、買収後にその利益が24ヶ月続いた場合だけです。25ヶ月目からがようやく儲けで、逆に8ヶ月で流入が消えれば、残り16ヶ月分は丸ごと損失です。倍率は「何年分」という時間の単位で語られますが、中身は時間ではなく継続性への賭け金なのです。

ということは、相場が相場として機能するための前提は、たった一つに集約されます。その利益が来月も再来月も、だいたい同じように出続けると、売り手と買い手の双方が信じられること。この前提が共有されている限り、あとは倍率を24にするか30にするかという、程度の交渉に収まります。

「相場」という便利な言葉は、この前提を語らずに済ませてしまうところが厄介です。前提が揺らいでいる案件にも、同じ顔で「24ヶ月分ですよね」という会話が始まってしまう(そして始まった直後に、静かに終わります)。

同じ月20万円でも、値段が違う理由

同じ月20万円でも、値段が違う理由

前提が揺らぐとはどういうことか。ここで、利益の「質」という話に入ります。

月20万円の利益を出しているサイトが2つあるとします。片方は、サービス名での指名検索とメルマガとSNSからの再訪で流入の6割を作っている。もう片方は、収益キーワード1本の検索順位が3位に入っていて、そこからの流入が9割を占めている。財務諸表に載る数字は、どちらも月20万円です。

それでも、この2つに同じ倍率は付きません。前者の流入は、ユーザーが「あのサイトを見よう」と思って発生しているので、オーナーが変わっても構造的には残ります。後者の流入は、Googleが「このページを3位に置こう」と判断している間だけ存在します。買い手が買っているのは20万円という金額ではなく、20万円を再生産している仕組みのほうですから、その仕組みが誰の手の内にあるのかで値段が変わるのは、当然といえば当然です。

ここまでは、順位変動リスクという一般的な話です。Googleのコアアップデートで流入が動くこと自体は、検索に依存する事業なら誰もが織り込んでいるコストであり、だからこそ倍率が24から18に下がる、といった調整で処理できます。減点で済む話です。

問題は、この先にあります。

有料リンクは倍率を下げるのではなく、相場そのものを消す

有料リンクは倍率を下げるのではなく、相場そのものを消す

本題です。その順位が、有料リンクや自作自演のリンクネットワークによって支えられている場合、何が起きるか。

直感的には「リスクが高い分、倍率が下がる」と思われがちです。24が18になり、あるいは12になる。しかし、実務で起きているのはそれではありません。倍率という計算そのものが成立しなくなります

理由は、リスクの種類が違うからです。通常の順位変動リスクは、確率として扱えます。過去の変動幅があり、被弾の頻度があり、回復の実績がある。だから「年に1回は10%落ちる前提で、倍率を2割引く」といった処理ができます。数字にできるものは、値段にできます。

ところが、規約違反のリンクで作られた順位に対して、買い手は同じ処理ができません。この場合の「利益が続く月数」は、Googleがそれに気づいていない期間の長さとイコールです。そして、その期間がどれくらいなのかを予測する手段は、売り手にも買い手にも、正直なところ誰にもありません。次のリンクスパムアップデートで終わるかもしれないし、5年間気づかれないかもしれない。3年間何も起きなかったという実績は、4年目の安全を1ミリも保証しません(むしろ、時間が経つほど蓄積したリンクの量は増えています)。

「これまで何年も大丈夫だったのだから、リスクは低いはずだ」という反論は成り立ちません。むしろ逆で、無事だった年数は、そのリンクが積み上がってきた年数でもあります。そして、世に出回っている相場の数字そのものが、この点で偏っています。成約事例として記録に残るのは、発覚しなかった案件だけです。買収後半年で流入が消えた案件は、誰も「うちはこの価格で買いました」とは書きません。24ヶ月分という平均値は、生き残った側だけを集めた平均なのです。

もう一つ、買い手が神経質になる理由があります。発火のタイミングが、取引の進行と無関係に訪れることです。意向表明から最終契約・引き渡しまでには、案件にもよりますが数ヶ月かかります。その数ヶ月の間に、買い手が見ている数字は最後まで健全なままです。気づかれていない限り、順位は保たれ、収益は満額出続けるからです。デューデリジェンスの期間中にどれだけ数字を眺めても、この種のリスクは数字の側からは絶対に見えてきません。「調べたけれど何も出なかった」ことが、安全の証明にならない構造になっています。

継続月数の見当がつかないということは、期待値が計算できないということです。期待値が計算できないものに、24という数字を掛けることはできません。買い手は電卓を置きます。そして、その瞬間にその案件は「相場より安い案件」ではなく、相場という枠の外側にある案件になります。

この違いは決定的です。相場の枠の中にいれば、交渉は数字の押し引きです。枠の外に出てしまうと、交渉は「買うか買わないか」「どういう条件なら買えるか」という、まったく別の議題に置き換わります。被リンクの話が価格に効くというのは、こういう構造のことを指しています。技術的な減点項目の一つ、という位置づけではないのです。

テーブルの上で、具体的に何が変わるか

テーブルの上で、具体的に何が変わるか

枠の外に出た案件が、その後どう扱われるかを整理します。実務では、おおむね3つの経路に分かれます。

1. 減点で収まる(リンクの寄与が限定的だと説明できた場合)

過去に業者へ依頼した履歴はあるが、現在の主要流入は別の経路で作られており、それを数字で示せる場合です。この場合はリスクの大きさが見積もれるので、倍率の調整という形で決着します。売り手にとっては、これが最良の着地です。

2. 取引の形が変わる(最も多い経路)

買い手が「価格では調整できないので、支払い方で調整させてほしい」と言い始めるパターンです。代金の一部を引き渡し後6ヶ月・12ヶ月といった時点に分割し、その時点で流入が維持されていることを支払い条件にする。あるいは代金の一部を一定期間留保する。表明保証条項に「検索エンジンのスパムポリシーに違反するリンク構築を行っていないこと」を独立して盛り込み、違反発覚時の補償額を定める。

ここで起きているのは、「相場どおりの金額で売れた」と「相場どおりの金額を受け取れた」が別物になるということです。契約書の金額欄には480万円と書いてある。しかし手元に確実に入るのは240万円で、残りは1年後のGoogleの機嫌次第。しかも、その1年間はもう自分の手で運営していないので、打てる手が一つもない。名目上は相場で売れているのに、手取りは構造的に削られています。

3. 撤退

買い手が黙って離脱します。理由を丁寧に説明してくれる買い手ばかりではないので、売り手側には「なんとなく話が流れた」としか見えません。何が問題だったのかを知る機会すらないまま、次の買い手にも同じ資料を出すことになります。

売り手の多くは、自分が依存していることを知らない

売り手の多くは、自分が依存していることを知らない

ここで、一つ重要な前提を挟みます。この記事を読んでいる方の中には「自分は有料リンクなんて買っていないから関係ない」と思っている方が多いはずです。おそらく、その認識の半分は正しく、半分は危ういです。

Webメディアの運営で、SEOを外部に委託していた期間が少しでもある場合、その施策の中身を運営者本人が把握していないケースが珍しくありません。契約書に書かれていたのは「被リンク対策」「サテライトサイトの構築・運用」「上位表示保証プラン」といった名称で、具体的にどのサイトからどうリンクを張ったのかは、報告書にも書かれていない。悪意があったわけではなく、「そういうものだと思っていた」というだけの話です

だからこそ、確認の順序は多くの人が想像するのと逆になります。ahrefsやSearch Consoleを開く前に、まず過去の請求書と契約書を見てください。リンクが有料だったかどうかは、被リンク解析ツールの画面ではなく、会計の記録に書いてあります。月額のSEO費用として何年も支払いが続いている項目があり、その施策内容が「リンク」に類する言葉で書かれているなら、それは調べるべき対象です。

そしてもう一つ、この構造には副次的な問題があります。その月額費用を止めた瞬間に順位が落ちるなら、それは引き継げないコストです。買い手は買収後、そのSEO費用を毎月払い続けなければ現在の利益を維持できません。つまり、IMに書かれた月間利益は、実際にはその費用を差し引いた後の数字であるべきだった、という話になります。この種の食い違いはIMに記載された数字の信頼性そのものを揺らがせるので、発覚したときのダメージは金額以上に大きくなります。

逆に言えば、リンクが自然に増えていた、つまり誰かが勝手に紹介してくれていたのであれば、それは疑いようのない資産です。同じ「被リンクが多い」でも、無料で増えたのか有料で買ったのかで、価値の符号が反転します。

相場を取り戻す作業は、リンクを消すことではない

相場を取り戻す作業は、リンクを消すことではない

では、思い当たる節があった場合にどうするか。ここで「否認ファイルを出してリンクを切ればいい」と考えると、方向を間違えます。

リンクを外せば、当然ながら順位は落ちます。落ちた順位に連動して利益も落ち、月間利益が下がれば、相場計算の掛けられる側の数字が小さくなります。倍率を守るために利益を差し出すことになるので、手取りが増えるとは限りません(このジレンマがあるから、みんな見て見ぬふりをします)。

目指すべきは、リンクを消すことではなく、買い手にとっての不確実性を消すことです。買い手が電卓を置いたのは、リンクがあるからではなく、継続月数が読めなくなったからでした。であれば、やるべきことは「読めるようにする」ことです。

具体的には、流入の内訳を、自分の言葉で説明できる状態にすることです。全体の流入のうち何割が指名検索で、何割が直接流入で、何割がSNSやメルマガからの再訪で、何割が一般キーワードの順位に依存しているのか。その一般キーワードのうち、外部施策の影響を受けている可能性があるのはどれか。過去にどんな施策を、いつからいつまで、いくら払って実施したのか。

この整理は、道具立てとしては大げさなものを必要としません。Search Consoleの検索クエリを開いて、サイト名やサービス名を含むクエリからのクリック数を合計すれば、指名検索の実数が出ます。アクセス解析で参照元がない流入(ブックマークや直接入力)と、リピート訪問の比率を出す。この2つを足した数字が、Googleの順位が動いても残る流入の下限です。作業としては半日で終わります。

この数字が全体の4割ある事業と、5%しかない事業とでは、同じ月間利益でも買い手の見る景色がまるで違います。前者なら「最悪でも4割は残るので、その部分には通常の倍率を、残りには割り引いた倍率を」という計算ができる。後者は、収益のほぼ全量が一つの判定の上に乗っているので、計算を分ける余地がありません。倍率が付くかどうかは、リスクの有無ではなく、リスクを切り分けられるかどうかで決まっているのです。

この整理ができていれば、買い手は「最悪の場合でも、この6割は残る」という形で計算を再開できます。計算が再開できれば、倍率が戻ります。不都合な事実の開示は、値下げの材料ではなく、計算の材料です。買い手が本当に嫌がるのは不都合そのものではなく、不都合が何個あるのか分からない状態のほうです。

そして、より本質的な処方箋は、リンクに依存しない流入の比率を、時間をかけて上げていくことに尽きます。指名検索を増やす。メルマガを育てる。SNSで直接届く経路を作る。どれも地味で、半年や1年では効きません。だからこそ、売ると決めてから始めるのでは間に合わないのです。この構造は、財務DDの射程がPLの中身にしか及ばず、その数字を生んでいる外側の仕組みを誰も見に来ないからこそ、売り手自身が先回りするしかない領域だといえます。

相場は誰かが決めた数字ではなく、説明できるかどうかで決まる

相場は誰かが決めた数字ではなく、説明できるかどうかで決まる

「サイト売却 相場」という検索で出てくる24ヶ月分という数字は、嘘ではありません。実際にその水準で成約している案件はたくさんあります。ただ、その数字は「利益の継続性について、買い手が疑問を持たなかった案件の平均値」であって、すべての案件に適用される公式ではないのです。

相場という言葉は、どうしても「どこかに決まった価格表があって、そこに自分のサイトを当てはめれば答えが出る」という錯覚を生みます。しかし実際には、価格は毎回ゼロから作られています。作っているのは買い手の頭の中の「この利益は何ヶ月続くか」という一行の問いで、その問いに対する答えの確からしさが、そのまま倍率になっている。技術的DDという工程が価格に効くのも、結局はこの一行の確からしさを上げ下げしているからです。

ですから、もしご自身のサイトが相場より安く見られていると感じることがあったなら、金額の妥当性を争う前に、確認してほしいことがあります。その利益が来月も続く理由を、自分の口で説明できるでしょうか。説明できるなら、その説明を資料にすればいい。説明できないなら、それは値段が不当なのではなく、まだ値段が付けられる状態になっていないだけです。

何年もかけて作ったサイトには、それに見合った値段が付くべきです。そして、その値段を守る作業は、交渉のテーブルの上ではなく、その何年かの中にありました。今からでも遅くはありません。まずは自分のサイトの流入が、どこから来ているのかを見に行くところからです。それが、相場という言葉に振り回されないための、最初の一歩になります。

自分のサイトの被リンクの健全性が見えてきたら、次は相場観です。WEBサイト売却の無料査定で、想定売却額のレンジを確かめられます(登録不要)。

この記事の著者

黒沢 大輔

株式会社studio C 代表取締役

これまで4回の事業譲渡を実現。上場企業にてエンジニア、制作ディレクション、SEO事業立ち上げを歴任。副業で始めた複数の掲示板サイトを国内最大規模まで成長させて事業譲渡。日本のM&Aに透明性と精度をもたらすべく、デジタル事業のM&Aプラットフォーム『RIKKA M&A』を立ち上げ。